脱6価クロムのめっき技術

出典: SGK_Wiki

環境に配慮しためっき技術 -硬質クロムめっきに代わる「ハードコンポ」-

RoHs指令など、環境への配慮から6価クロムの使用を禁止する動きが活発だ。
6価クロムを使用せず、環境に配慮しながら、従来の硬質クロムめっきを超える品 質をもつめっき技術がある。
今回は、ヨシノハード(株)のハードコンポについて紹介する。

ヨシノハード(株):阿部氏、佐々木氏
インタビュアー:編集
(以下敬称略)

阿部氏(右)佐々木氏(左)
拡大
阿部氏(右)佐々木氏(左)

■:硬質クロムめっきが環境によくないという話がありますが、具体的にはどのよ うなことでしょうか。

阿部:硬質クロムめっきが環境によくないという話の原因は、6価クロムにあります。
この6価クロムは人体に大変有害な物質であることから環境によくないということです。
ですので6価クロムを使用しないことが、環境という意味で重要だと考えております。

■:ヨシノハードが最近開発したハードコンポとは、どのようなめっき技術なので しょうか。

阿部:現在、多く使用されている硬質クロムめっきの、代替技術となるものです。
硬質クロムめっきと比べて、環境に対して有害な物質を含まないめっき技術です 。
6価クロムを使用していません。

■:硬質クロムめっきの代替ということですが、品質は同等なのでしょうか

佐々木:品質は同等以上です。
硬質クロムめっきに比べて、硬度や、はがれにくさ、さびにくさという点で 高い性能をもっています。

これは硬質クロムめっき(JIS規格)と同等の硬さを示しています。
また、はがれにくさですと、めっき層と鉄素地において金属間相互拡散させ拡散層を形成させます。
これにより耐剥離性が向上し、はがれにくくなります。
さびにくさでも20[μm]のめっき層のもので耐食性試験を行った結果、硬質クロムめっきよりも高い性能を示しています。

■:ハードコンポは、硬質クロムめっきに比べて、技術的にはどのような違いがあ るのですか

阿部:ハードコンポは、無電解ニッケルめっき浴を当社独自にアレンジしたものを基調とし、さらに熱処理を組み合わせたものです。
6価クロムを用いる硬質クロムめっきとは、素材も製法も異なります。

■:一般的な無電解ニッケルめっきではなにか問題があったのですか
なにかアレンジの必要があったということでしょうか。

阿部:一般的な無電解ニッケルめっき浴では、金属相互拡散結合させる温度にした時、硬質クロムめっきと同等の硬さが得られないという問題がありました。
そこで、金属相互拡散結合させる温度しても硬度が得られるようにめっき浴をアレンジし、この欠点を補うことに成功しました。
その結果ハードコンポは、無電解ニッケルめっき、硬質クロムめっきを凌駕する性能を実現しました。

佐々木:ハードコンポについて、もう少し具体的にお話すると、
めっきの性質を悪化させる原因として、母材とめっき層との境界面の構造と、
めっき層表面のピット、クラックがあります。(編集注:ピット:小さな穴、クラッ ク:ひび割れ)
めっき層表面自体は酸化膜を形成しているので、錆びには強いのですが、
ピット、クラックがあると、母材が侵食されてしまうのです。
これらを改善することができれば、はがれにくく、錆びにくいめっきを実現でき ます。
こちらをご覧にになるとわかるように(電子顕微鏡の写真を示して)、無電解ニッ ケル めっきはめっき層と母材がはっきりと分かれています。これに対して、ハードコ ンポでは、母材とめっき層が混ざり合って、双方の材料が徐々に変化している層 があります。
これは、ハードコンポのめっき層が母材と金属結合を形成していることを示して おり、はがれにくいめっき層を形成していることになります。
また、ハードコンポは熱処理も行うので、これにより、ピットもクラックも 大幅に減らすことができます。
さらにいうと、このめっき層ではリンの混入量を抑えているので、柔軟なめっき 層を形成します。

■:性能がよくなったことで、コストはやはり高くなるのでしょうか
阿部:硬質クロムめっきと同等か、材料の形状によってはむしろ安い場合もありま す。
硬質クロムめっきでは、材料を固定する冶具が必要なのですが、ハードコンポ の場合、これが不要になります。
熱処理工程の分コストは上がるのですが、冶具の製造費用がかからないので 、トータルでは同等です。また、複雑な形状の冶具を用いる場合などはむしろ低 コストです。

■:見た目は硬質クロムめっきと変わらないのでしょうか
阿部:通常のハードコンポ処理では、仕上がりが緑色になります。
このとき、金属表面の結晶構造は、六方晶形といって、
潤滑効果のある構造になっています。
そのため、摩擦部分などに用いると、めっき表面自体が潤滑作用を発揮し、磨耗 を抑えることができるのです。
ただ、硬質クロムめっきのような光沢色に仕上げることもできます。

(左)通常処理(右)光沢仕上げ
拡大
(左)通常処理(右)光沢仕上げ

■:なるほど。ところで、このハードコンポは、どのような経緯で開発が始 まったのですか。
阿部:社長の執念です(笑)。当初、技術者の間では、現在の硬質クロムめっきで よいではないか、という見方が大勢を占めていました。
しかし、「これからは、環境を攻撃する技術を使う時代ではない」「環境に配慮 した技術を開発しなければならない」
という、社長の執念に近い言葉を毎日聞かされているうちに、「それじゃや ってやろうじゃないか」という雰囲気が徐々にできあがり、
開発が始まりました。結果的に、環境に配慮できたばかりか、従来より品質が高 い技術を完成させることができました。

■:社長に説得されてしまったわけですね。
阿部:はい。すごい執念で、すっかり説得されてしまいました。その後、実際にRoHs 指令などで、 具体的に6価クロムの使用が禁止されたので、開発しておいて本当に良かったと思 います。

■:技術開発は、どのようなところから開始したのでしょうか
阿部:まず「そもそも硬質クロムめっきがなぜ必要なのか」ということを徹

底的に検証することから始めました。
そうすると、硬度、はがれにくさ、さびにくさの品質を満たせば特に硬質ク

ロムめっきを使用しなければならない根拠が

ないことがわかりました。
そこで、硬質クロムめっき以外の技術を調査し、その弱点を克服し、品質を

高めるという方向性で開発を開始しました。

■:これだけ世の中にあふれてる硬質クロムめっきに、特に使用する根拠が なかったというのはおどろきですね。
阿部:そうですね。昔からの習慣のようなものだったみたいです(笑)

■:今日はありがとうございました